札幌高等裁判所 平成2年(行コ)3号 判決 1992年2月20日
三号事件控訴人、四号事件被控訴人(一審原告) 東光産業株式会社
三号事件被控訴人、四号事件控訴人(一審被告) 札幌西税務署長 事務承継人札幌北税務署長
代理人 大沼洋一 林俊豪 ほか四名
主文
一 一審原告の控訴を棄却する。
二 一審被告の控訴に基づき原判決中、一審被告の敗訴部分を取り消す。
三 一審原告の請求を棄却する。
四 訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
(平成二年(行コ)第三号事件)
1 一審原告
(一) 原判決中、一審原告敗訴部分を取り消す。
(二) 札幌西税務署長が一審原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五五年三月期」という。)の法人税について、同年一一月二一日付でした更正(昭和五八年七月一一日付でした再更正により減額された後の部分。以下「本件更正」という。)並びに加算税の賦課決定(昭和五八年七月一一日付でした再賦課決定及び昭和六〇年六月二四日付審査裁決により変更された後の部分。以下「本件賦課決定」という。)を取り消す。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。
2 一審被告
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は一審原告の負担とする。
(平成二年(行コ)第四号事件)
1 一審被告
(一) 主文第二、三項と同旨
(二) 控訴費用は一審原告の負担とする。
2 一審原告
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は一審被告の負担とする。
二 当事者の主張
当事者双方の主張は次のとおり訂正、付加するほかは原判決事実「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 右記載中の「被告」を「札幌西税務署長」に改める。
2 原判決六枚目裏九行目の「札幌地方裁判所から競落によって取得」を「札幌地方裁判所の不動産競売手続により取得」に、同七枚目表三行目の「不動産」を「札幌地方裁判所の不動産競売手続により同表記載の不動産(以下これを「マンションカルチェド札幌四一二号」という。)」にそれぞれ改める。
3 同一〇枚目裏六行目の「建物部分」の前に「各」を加え、同一三枚目表一一行目の「一致し」から同一二行目の「税額は、」までを「一致する。要するに昭和五五年三月期において納付すべき税額は、審査裁決で維持された」に改め、同一三行目の「税額」の次に「二〇五四万〇四〇〇円」を、同裏七行目の「六八条」の次に「(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。以下同じ)」をそれぞれ加える。
4 同一四枚目表一一行目の次に行を改め、次のとおり加える。
「(三) 加算税の計算方法
前記のとおり、計算上一審原告が納付すべき税額は二三三五万二九〇〇円であるが、そのうち重加算税の対象となる税額は合計八四一万七六〇〇円となり、その余の一四九三万五三〇〇円が過少申告加算税の対象となるべきところ、再更正処分により納付すべきものとされた税額は二〇五四万〇四〇〇円である。このような場合には、二〇五四万〇四〇〇円から先ず重加算税対象分(八四一万七六〇〇円)を計算し、その余(一二一二万二八〇〇円)を過少申告加算税対象分として計算すべきである。
通則法六八条一項は、「過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことであることが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)」としており、重加算税対象税額を過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額から隠ぺい又は仮装されていない事実に基づく税額を控除した税額として定めているようにも解される。しかし右括弧書部分の趣旨は、隠ぺい又は仮装があってもその不足額全体に重加算税を課するのではなく、隠ぺい又は仮装があった部分についてのみ重加算税を課し、その余は過少申告加算税を課することにより行為責任の原則の実現を図ることにあり、それ以上の意味はなく、総額主義のもとでの範囲内認定(特に重加算税対象分と過少申告加算税対象分の優先関係)を擬律する趣旨の規定でないことは、その沿革をみれば明らかである。すなわち、昭和二五年に創設された重加算税の制度は隠ぺい又は仮装に基づく部分が一部でもあれば不足額全体について重加算税を賦課するというもので、行為者に責任のない部分についてまで制裁することになり保障原則に反するとの批判がなされていたが、この不合理を是正するため、昭和二八年法律第一七四号により右括弧書部分とほぼ同一文言が法人税法四三条の二に設けられ、これが国税通則法(昭和三七年法律第六六号)にほぼ同一文言で引き継がれ、現在に至っているのである。そして、通則法六八条一項の重加算税条項は、同法六五条の過少申告加算税条項の加重規定であり、特別規定であるから、前者を優先して適用すべきである。このように解しないと、原処分の際捕捉されないでいた申告漏れの所得(隠ぺい又は仮装されていなかったもの)が認定されると、原処分の認定事実のもとでは適法であった重加算税の賦課処分を取り消すべきこととなり、右申告漏れの部分が大きいほど重加算税が減額されるという不合理な結果をもたらすこととなる。」
5 同一四枚目表一二行目冒頭から同一三行目の「規定する率」までを「(四) 前記の重加算税対象分八四一万七六〇〇円、過少申告加算税対象分一二一二万二八〇〇円に通則法六八条一項及び同法六五条一項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する割合」に改める。
6 同一四枚目裏四行目から同一五枚目表一行目までを次のとおり改める。
「抗弁1(一)は認める。同(二)の推計課税の必要性があったことは認める。同(三)、 (四)については、一審原告の昭和五五年三月期の資産等が、「(負債合計)」、「当期利益金」及び「(負債資本合計)」の各科目を除き、原判決添付別表2の昭和五五年三月期の各科目につき「調査額」欄記載のとおりであること、一審原告が札幌地方裁判所の不動産競売手続で、原判決添付別表4の各「取得年月日」欄記載の日に、各「種類」、「面積」、「所在」欄記載の土地、建物を各「取得価額」欄記載の代金で取得したが、昭和五五年三月期の貸借対照表にはそのうち六〇〇〇万円につき資産として計上するにとどまり、その余を計上しなかったこと、昭和五三年六月一三日、マンションカルチェド札幌四一二号を代金五七一万円で取得したが、昭和五四年三月期、昭和五五年三月期の貸借対照表に資産として計上しなかったことは認めるが、推計によると一審原告の昭和五五年三月期における所得の金額が五四八〇万三三四五円となるべきことは否認する。後記五のとおり、一審原告の石山孝一からの借入金債務を計上すべきところ、これを計上していないため、右推計による所得金額は誤っている。
抗弁2は認める。
抗弁3は争う。
抗弁4(一)中、(1)は否認し、(2)は認め、(3)、(4)は否認する。同(二)は争う。」
7 同一五枚目表三行目から同一六枚目裏一二行目までを次のとおり改める。
「五 抗弁に対する一審原告の主張
1 一審原告は、札幌地方裁判所の不動産競売手続で、昭和五三年六月一三日、マンションカルチェド札幌四一二号を代金五七一万円で取得したほか、原判決添付別表4の各「取得年月日」欄記載の日に、各「種類」、「面積」、「所在」欄記載の土地、建物を各「取得価額」欄記載の代金で取得した。
2 一審原告は、右各代金をいずれもその都度石山孝一から借り受けて納付した(ただし、原判決添付別表4のうち昭和五四年七月三一日取得にかかる札幌市中央区北七条西二七丁目二二番二宅地ほかの土地、建物(以下「北七条西二七丁目不動産」という。)の代金七五二〇万円については内金一五二〇万円のみを借り受けた。)。
したがって、右各借入金合計五八九四万円を一審原告の債務として計上すべきものである。
3 一審原告はいわゆるペーパー会社であり、前記各不動産を取得できるような資産、自己資金はなく、このことは事実調査した札幌西税務署長がよく知るところである。簿外収益がなければ、右取得資金は借入れか贈与によるものと推定されるだけであるが、石山孝一が高額の法人税を負担してまで贈与したとみるべき合理的理由はなく、貸付金としか解しえないものである。石山孝一が右各貸付をした資金の流れを個々に書証で裏付けることは困難であるが、同人がその資金能力を有していたことは明らかである。
簿外不動産を計上しながら、右借入金を負債として計上しないのは不合理な推定であり、一審被告主張の所得金額推計は誤っている。」
三 証拠関係<略>
理由
一 請求原因1(一)ないし(三)(課税処分等の経緯)は当事者間に争いがない。
二 抗弁1(一)(札幌西税務署長が資産増減法により一審原告の昭和五五年三月期の所得金額を推計したこと)は当事者間に争いがない。
同1(二)の推計の必要性自体については一審原告も争わないところ、この点についての認定、判断は原判決理由二1(二)の(1)、(2)(原判決一七枚目裏三行目から同一八枚目裏末行まで説示のとおりであるからここに引用する(ただし、右記載中の「被告」を「札幌西税務署長」に改め、原判決一七枚目裏三行目の「証人」の前に「原審」を加え、同行及び同五行目の「原告本人」を「原審における一審原告代表者本人」にそれぞれ改める。)。
抗弁1(三)及び(四)のうち、一審原告の昭和五五年三月期の資産等の状態が、「(負債合計)」、「当期利益金」及び「(負債資本合計)」欄を除き、原判決添付別表2の昭和五五年三月期の各科目につき「調査額」欄記載のとおりであること、一審原告が札幌地方裁判所の不動産競売手続で、原判決添付別表4の各「取得年月日」欄記載の日に、各「種類」、「面積」、「所在」欄記載の土地、建物を各「取得価額」欄記載の代金で取得したが、昭和五五年三月期の貸借対照表にはそのうち六〇〇〇万円につき資産として計上するにとどまり、その余を計上せず、また昭和五三年六月一三日、マンションカルチェド札幌四一二号を代金五七一万円で取得したが、昭和五四年三月期、昭和五五年三月期の貸借対照表に資産として計上しなかったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
三 一審原告は、昭和五五年三月期の所得が推計によれば五四八〇万三三四五円となることを争い、「五 抗弁に対する一審原告の主張」のとおり主張するので検討する。
一審原告が札幌地方裁判所の不動産競売手続で、昭和五三年六月一三日、マンションカルチェド札幌四一二号を代金五七一万円で取得したほか、原判決添付別表4のとおり不動産を取得したことは前記のとおりであるところ、当審における一審原告代表者の供述によると、右各代金はいずれもその都度、全額(ただし、北七条西二七丁目不動産については内金一五二〇万円)を一審原告代表者である石山孝一から借り受けて納付したというのである。
しかしながら、石山孝一が一審原告とは別の株式会社(ロック建設)を経営していたこと(<証拠略>)、昭和五一年以降、石山孝一は個人としても多数の競売物件を競落取得していること(<証拠略>)からしても、一審原告代表者が石山孝一個人との経理上の区別の必要性を認識していなかったとは考え難く、<証拠略>によれば、一審原告は太陽神戸銀行からの五七五九万円及び石山孝一からの五七二万円の各借入金については当初から債務に計上して申告していることが認められるのであるから、仮に右供述のとおりに石山孝一から貸付がなされたのであれば、一審原告が前記不動産を資産に計上するとともにこれを借入金債務として計上するのが当然の処理であるのに、そうしなかった理由についての当審における原告代表者本人の供述は首肯させるに足りるものとは言い難い。そして、当審において原告代表者は、右貸借当時に記載していたメモ類を捜し出したというのであるが、未だ証拠として提出されてはおらず、また一審原告主張の石山孝一からの貸付は多数回かつ多額であり、一審原告代表者は石山孝一自身であるのに、その貸付資金の出所等、資金の流れを具体的に裏付ける的確な証拠はない。
更に、<証拠略>によると、一審原告は、審査請求の過程においては、前記土地競落資金は、石山孝一のほか太陽神戸銀行、浅倉工業、横田正道、鎌田正秀から借入れた旨述べていたのであるが、国税不服審判所の質問に対して、浅倉工業、横田正道及び鎌田正秀は、いずれも一審原告に対する貸付はない旨回答していたことが認められるところ、その後本訴においては、一審原告は右三者からの借入れの主張はせず、当審における一審原告代表者の供述によると、右三者からの借入れは一時的なものでまもなく返済され、借用証等の書類もなんら作成されなかったというのであるが、一貫しない信用性に乏しい供述といわなければならない。
そして、一審原告は、原審においては原判決一五枚目表七行目から同一六枚目裏二行目末尾までに記載のとおり(同部分をここに引用する。)主張したが(右主張が採用できない理由は、原判決二二枚目裏一行目から二三枚目裏五行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。)、当審においては右主張を撤回し、前記のとおり主張するに至ったのであり、このような主張の変遷もその真実性を疑わせるものというべきである。
以上からすれば、一審原告の前記主張に沿う原審及び当審における一審原告代表者本人の供述部分は容易には採用できず、むしろ昭和五五年三月期においては、一審原告主張の借入金債務は存在しなかったと認めるのが相当である。昭和五五年三月期にそれ以前に比較して一審原告の資産が急激に増加した経緯の詳細は証拠上不明であるけれども、本件においては前示のとおり一審原告の帳簿書類等の資料によりその経緯を把握することが不可能であったがゆえに資産増減法による推計をせざるをえなかったのであって、仮に石山孝一が一審原告に対して貸付けするだけの資力を有していたとしても、これから直ちに右資産に対応する借入金債務が負債として存在すると推定することはできない。
以上によれば、一審原告の昭和五五年三月期における負債合計は、原判決添付別表2の同期についての「調査額」欄記載のとおりとなり、当期利益金及び負債資本合計も同欄記載のとおりとなるから、札幌西税務署長が一審原告の同期の所得金額を五四八〇万三三四五円と推計したことは相当と認めることができる。
四 昭和五五年三月期の課税土地譲渡利益金額(抗弁2)については、一審原告が本件不動産を原判決添付別表5の「取得年月日」欄記載の日に同表「取得金額」欄記載の金額で札幌地方裁判所の競売によって取得し、同表「売却年月日」欄記載の日に同表「売却金額」欄記載の金額で、同表「売却先」欄記載の相手方に売却したこと、本件不動産のうちの各土地部分についての課税土地譲渡利益金額は合計七一三万一八三一円であること、以上の事実は当事者間に争いがない。
五 課税留保所得金額(抗弁3)についての認定、判断は、原判決理由二3(原判決二六枚目裏一〇行目から同二七枚目表六行目まで説示のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決二七枚目表四行目から同五行目にかけての「五四八〇万三三四五円×三五パーセント=一九一八万一一七〇円」を「五四八〇万三三四五円×〇・三五=一九一八万一一七〇円」に改める。)。
六 一審原告が納付すべき税額及び本件更正の適法性についての認定、判断については、原判決理由二4(原判決二七枚目表八行目から同二八枚目表七行目まで説示のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決二七枚目表八行目の「原告」の前に「以上によれば、」を加え、同二八枚目表六行目の冒頭に「本来」を加え、同行の「再更正処分に係る」を「再更正により減額された後の」に改める。)。
七 本件賦課決定の適法性について検討する。
1 以上の事実からすれば、一審原告が昭和五五年三月期の法人税の確定申告において、所得金額、課税土地譲渡利益金額、課税留保所得金額及び納付すべき税額につき、過少申告したことは明らかである。
2 そこで、重加算税の対象となる事実について検討すると、この点についての認定、判断は原判決理由二5(二)の(1)、(2)(原判決二八枚目裏一行目から同三〇枚目表一二行目まで説示のとおりであるからこれを引用する(ただし原判決二八枚目裏一三行目から同一四行目にかけての「原告」の前に「原審における」を加える。)。
3 そうすると、前示のとおり、一審原告が本来納付すべき法人税額は二三三五万二九〇〇円であるところ、そのうち重加算税の対象となるべき税額は八四一万七六〇〇円(所得金額に対する税額につき六七一万三六〇〇円、課税土地譲渡利益金額に対する税額につき一四二万六二〇〇円、課税留保所得金額につき二七万七八〇〇円の合計額)であり、過少申告加算税の対象となるべき税額は一四九三万五三〇〇円(所得金額に対する税額につき一四三六万七六〇〇円、課税留保所得金額につき五六万七七〇〇円の合計額)となる。
ところで、再更正の結果、納付すべきものとされた税額は前記二三三五万二九〇〇円に満たない二〇五四万〇四〇〇円である(再賦課決定においてはその全額が重加算税の対象とされていることが計算上明らかである。)から、二〇五四万〇四〇〇円の限度で重加算税と過少申告加算税の対象となる各部分を区分して計算すべきである。通則法六八条一項の重加算税の規定は、同法六五条所定の過少申告加算税との関係では、後者の過少申告加算税の賦課要件に付加される加重事由を定めた特別規定と解されるから、その適用については前者を優先すべきである。したがって、二〇五四万〇四〇〇円のうち、重加算税対象分は八四一万七六〇〇円全額であり、その余の一二一二万二八〇〇円を過少申告加算税対象分として計算すべきこととなる。
これによれば、次のとおり重加算税額は二五二万五一〇〇円、過少申告加算税額は六〇万六一〇〇円となる。
八四一万七〇〇〇円(昭和五九年法律第五号附則一二条五項、同法による改正前の通則法一一八条三項により一〇〇〇円未満切り捨て)×〇・三=二五二万五一〇〇円
一二一二万二〇〇〇円(同前)×〇・〇五=六〇万六一〇〇円
4 そうすると、右各金額は、再賦課決定及び審査裁決により変更された後の重加算税二五二万三〇〇〇円、過少申告加算税六〇万六〇〇〇円を超えるから、本件賦課決定は適法である。(審査裁決の変更は不利益変更にあたらない。)
八 以上の次第で、本件更正及び本件賦課決定は適法であり、一審原告の本訴請求は理由がないから棄却すべきである。
よって、一審原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、一審原告の本訴請求を一部認容した原判決は失当であるから、一審被告の控訴に基づき原判決中、一審被告敗訴部分を取り消し、一審原告の本訴請求を棄却し、第一、二審の訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 仲江利政 河合治夫 高野伸)
【参考】第一審(札幌地裁 昭和六〇年(行ウ)第一四号 平成二年三月二九日判決)
主文
一 被告が、原告の昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度の法人税について、同年一一月二一日付けでした過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(同五八年七月一一日付けでした過少申告加算税及び重加算税の再賦課決定及び同六〇年六月二四日付け審査裁決により減額された後の部分。)のうち二四二万八二〇〇円を超える部分を取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告の請求の趣旨
1 被告が、原告の昭和五四年四月一日から同五五年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五五年三月期」という。)の法人税について、同年一一月二一日付けでした更正(被告が同五八年七月一一日付けでした再更正により減額された後の部分。以下「本件更正」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(同日付けでした過少申告加算税及び重加算税の再賦課決定及び同六〇年六月二四日付け審査裁決により減額された後の部分。以下「本件賦課決定」という。)を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する被告の答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 課税処分等の経緯は、以下のとおりである。
(一) 原告は、不動産賃貸・売買及び地質調査等を目的とする株式会社で、昭和五五年三月末日現在、資本金一〇〇〇万円の法人税法(以下「法」という。)二条一〇号の同族会社に当たるものであるが、昭和五五年三月期の法人税確定申告を青色以外の申告書で、法定申告期限(法七四条)である昭和五五年五月三一日に、別表1の番号1の欄記載のとおり、欠損金額五二六万九九〇一円として被告に提出した。
(二) 被告は、原告の昭和五五年三月期の法人税について、別表1の番号2及び6の欄記載のとおり、更正及び再更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定及び再賦課決定をした。
(三) 原告は、被告のした右各処分について、別表1の番号3、4、5、7の欄記載のとおり、異議申立て、同決定、審査請求及び同裁決の不服申立て手続きを経由している。
2 しかし、昭和五五年三月期の原告の所得金額は、別表記載の申告額のとおりであり、本件更正は不当な推計に基づき所得を認定した違法があり、それに附帯してされた本件賦課決定も違法である。
3 よって、原告は、本件更正及び本件賦課決定の取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否
請求原因1(一)ないし(三)の事実は、認める。
同2は争う。
三 被告の抗弁
1 原告の昭和五五年三月期の事業所得
(一) 被告は、原告から提出された確定申告書に添付されていた貸借対照表をもとに、原告の設立第一期である昭和五〇年七月二四日から同五一年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五一年三月期」という。)以降の貸借対照表を比較検討し、また、原告の取引銀行及び原告所有建物の賃借人に対して反面調査を行い、さらに、不動産鑑定士作成の評価書等を収集するなどして把握した金額及び評価額等をふまえ、財産増減法、即ち、原告の当期の期首及び期末の純資産(資産の額マイナス負債の額)の額の増減を調査し、これに資本の増減があった場合にはその額を加算ないし減算して所得金額を求める方法により、原告の昭和五五年三月期における所得金額を推計した。
(二) 推計の必要性は、以下のとおりである。
(1) 被告は、原告から提出された確定申告書に記載されている所得金額等を確認するため、同確定申告書添付の損益計算書及び貸借対照表を作成する基礎となった帳簿類及び証拠書類等を調査する必要があると認め、被告の調査官清野敏爾(以下「清野係官」という。)は、原告の昭和五五年三月期分の法人税について調査を試みた。
(2) 清野係官は、昭和五五年九月二〇日、原告の事務所に赴き、同所にいた原告代表者代表取締役石山孝一(以下「石山孝一」という。)に身分証明書を提示し、申告した所得金額の計算内容を確認するため調査に伺った旨を告げたうえ、昭和五五年三月期における損益計算書及び貸借対照表を作成する基礎となった帳簿類及び証拠書類(契約書、請求書及び領収書等)を提出するよう要請した。
これに対し、石山孝一は、「帳簿類は存在していないので出せない。証拠書類もほとんど保存していない。決算書類は、自分の記憶のみに基づいて作成したものである。」旨申し述べるだけで、清野係官の右提出要請に応じようとはしなかった。
しかしながら、清野係官は、原告の昭和五五年三月期の決算書類を石山孝一がその記憶のみに基づいて作成することは不可能であると判断し、同人に対し、その旨を告げたうえ、更に右提出方を要請したが、同人は、「決算書類は、自分の記憶のみに基づいて作成したものであり、帳簿類等は存在しない。」旨を繰り返し述べるだけで、右提出要請に応じようとはしなかったため、清野係官は、やむなく、原告の事務所を辞去した。
(3) 清野係官は、その後も引き続き、昭和五五年一〇月初めころまでの間、電話で、石山孝一に対し、再三にわたり、帳簿類及び証拠書類の提出方を要請したが、同人は、依然として、「決算書類は、自分の記憶のみに基づいて作成したもので、帳簿等は存在しない。」旨を繰り返し述べるだけで、被告の帳簿類等の提出要請に応じようとはせず、税務調査に非協力的な態度に終始した。
(4) 以上に述べたとおり、被告において、原告の昭和五五年三月期分の所得金額を取引実績額(総収入金額、必要経費につき実額)によって把握することができなかったため、やむを得ず、法一三一条に基づく推計課税を行ったものであり、推計課税の必要性があったことは明らかである。
(三) 推計による原告の昭和五五年三月期における所得の金額は、五四八〇万三三四五円であり、その勘定科目ごとにおける計算の根拠は以下のとおりである。
(1) 繰越利益(損失)金の額 △四〇二万九八六五円
原告が被告に提出した確定申告書に添付されている貸借対照表は、会計学上の等式(資産=負債+資本)にしたがっていない独自の方法により作成されたものであり、そのままの状態では採用できなかった。
そこで、被告は、調査の上、財産増減法により、原告の設立第一期である昭和五一年三月期から昭和五五年三月期までの事業年度における繰越利益(損失)金を順次補正したが、その内容は、別表2の各事業年度ごとの各調査額欄記載のとおりであり、原告の昭和五五年三月期における繰越損失金は、△四〇二万九八六五円である。
(2) 普通預金勘定の金額 五七万七三二一円
(3) 定期預金勘定の金額 三六二万九八八八円
(4) 建物勘定の金額 八二一三万九二八七円
原告が被告に提出した確定申告書に添付されていた定率法による減価償却資産の償却額の計算に関する明細書、貸借対照表及び損益計算書等によれば、原告には昭和五三年四月一日から同五四年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五四年三月期」という。)における一〇〇万円以外は、建物に対する資本的支出及び除却等の事実が認められないにもかかわらず、昭和五一年三月期を除く設立以後の各事業年度の建物勘定の金額と、原告が減価償却費として損金経理した金額との間に相関性が認められなかった。
そこで、被告は、原告が、確定した決算において減価償却費として計上している金額を限度として、昭和五一年四月一日から同五二年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五二年三月期」という。)にまでさかのぼって、貸借対照表に計上すべき建物勘定の金額を算定したが、その内容は、別表3記載のとおりであり、原告の昭和五五年三月期における建物勘定の金額は、合計八二一三万九二八七円である。
(5) 決算外の土地及び建物の金額 五八九四万円
原告は、被告が別表4の昭和五五年三月期分欄に記載したとおり、土地及び建物を、合計一億一三二三万円で札幌地方裁判所から競落によって取得しているから、その全額を昭和五五年三月期の貸借対照表の資産の部に計上すべきところ、そのうちの六〇〇〇万円について貸借対照表に資産として計上したにとどまり、残りの五三二三万円については貸借対照表に計上しなかったか、右計上もれ分の金額五三二三万円は、昭和五五年三月期末の貸借対照表上の資産として計上すべきものである。
なお、原告は、前期において、次表に記載したとおり、不動産を取得していながら、これを前期の貸借対照表に資産として計上していなかったが、右不動産の取得金額五七一万円も、昭和五五年三月期末の貸借対照表上の資産として計上すべきものである。
取得年月日
種類
面積m2
所在
取得価格
備考
昭和五三、六、一三
宅地
3382.2×55/7,783
札幌市西区二四軒四条三丁目六二番二
五七一〇〇〇〇円
マンションカルチェド札幌四一二号
建物
五五・三一
〃
の七四
したがって、原告の昭和五五年三月期における決算外の土地及び建物の金額は、右の金額を合計した額、すなわち、五八九四万円となる。
(6) 短期借入金勘定の金額 一〇七二万円
(7) 預り敷金 一八〇万円
原告は、昭和五四年七月三一日に、札幌市中央区北七条西二七丁目二二番地二ほか二筆の土地及び当該土地の上に所在する五階建事務所用建物を、札幌地方裁判所の競売により取得したことに伴い、当該土地及び建物の前所有者で、原告が取得する以前から当該建物に入居しており、引き続き入居することになった浅倉工業株式会社(以下「浅倉工業」という。)から、同年九月に敷金として一八〇万円を受領しているから、同金額は、昭和五五年三月期末の貸借対照表の負債の部に預り敷金として計上すべきである。
(8) 以上の(1)から(7)の勘定科目以外の勘定科目については、別表2記載のとおり、原告の昭和五五年三月期の確定申告における貸借対照表に記載された金額と同一である。
(四) 推計の合理性は、以下の理由から明らかである。
(1) 被告が本件において、原告の所得金額を算出するために採用した推計方法は、前記(一)で述べたとおり、原告が被告に提出した確定申告書に添付されていた貸借対照表をもとに、原告の当期の期首及び期末の純資産の額の増減を調査し、資本の増減の額を加・減算して所得金額を算出したものであるところ、原告の財産の増減状況は、次の方法に基づいて把握したものである。
(イ) 繰越利益金の金額は、別表2記載のとおり、原告の設立事業年度である昭和五一年三月期にまでさかのぼり、以後順次各事業年度の繰越利益金額を再計算した。
(ロ) 普通預金勘定の金額は、原告の取引銀行である太陽神戸銀行札幌支店に対する反面調査により取得した同銀行の普通預金月中取引記録表により把握した。
(ハ) 定期預金勘定の金額は、同銀行に対する反面調査により取得した同銀行の定期預金月中取引記録表により把握した。
(ニ) 建物勘定の金額は、建物の取得時期にさかのぼり、建物の取得価格から、確定した決算に計上されている減価償却費を限度として、正規の減価償却費を控除して再計算した。
(ホ) 決算外の土地及び建物勘定の金額は、札幌地方裁判所の競売関係書類により把握した取得価額を基礎として計算した。
(ヘ) 短期借入金勘定の金額は、貸主である株式会社ロック建設技術研究所(以下「ロック建設」という。)に対する法人税調査により把握した金額に基づき計算した。
(ト) 預り敷金勘定の金額は、賃借人である浅倉工業に対する反面調査により把握した。
(2) 右の計算方法は、被告が原告の財産の増減状況を把握するに当たり、銀行・裁判所等の信用性ある機関により作成された客観的な資料に依拠し、また、原告の計算の誤りを会計学上の等式に従って修正したもので、そこには被告のし意が介在する余地はないのであるから、推計の基礎事実は正確に把握されているものであり、帳簿書類等の存在しない本件にあっては、真実の所得に近似した数字が算出されるような客観性を備えているものといえる。
2 原告の昭和五五年三月期の課税土地譲渡利益金額
(一) 原告は、別表5記載の土地及び建物(以下「本件不動産」という。)を同表取得年月日欄記載の日に、同表取得金額欄記載の金額で、札幌地方裁判所の競売によって取得した後、同表売却年月日欄記載の日に、同表売却金額欄記載の金額で、同表売却先欄記載の相手方に売却しているが、原告が本件不動産のうちの各土地部分を取得したのは、いずれも昭和四四年一月一日以後である。したがって、その譲渡利益金額の合計額の二〇パーセントに当たる金額が法人税の額に加算されることになる(租税特別措置法(昭和五五年法律第九号による改正前のもの。以下「措置法」という。)六三条一項一号)。
被告は、右加算金額の基礎となる課税土地譲渡利益金額を算出する前提として、本件不動産のうちの各土地部分及び各建物部分の取得金額及び売却金額を推計の方法により確定した。
(二) 原告には、土地あるいは建物ごとの各金額を記入した帳簿・書類等が作成されておらず、他に右各土地部分及び建物部分の各金額を実額によって把握しうる資料もなかったため、被告は本件不動産のうちの各土地部分及び各建物部分の各金額(評価額。以下同じ。)を推計により算出せざるをえなかった。
(三) 被告は、右各土地部分の各金額を推計により算出するに当たり、正確を期するため、最も参考となる右各土地部分の近傍類似の土地(別表6の1の参考欄記載の基準地)の地価公示価格を基準として、札幌地方裁判所が本件不動産を競売するに際して依頼した不動産鑑定士による本件不動産の鑑定時点及び鑑定評価額をもとに、原告が本件不動産を取得した時点及び譲渡した時点の各時価の変動率を時点修正して各土地部分の各金額を求め、また、各建物部分については、再調達原価をもとに未償却残高を求め、評価時点におけるそれぞれの時価を算定し(なお、本件不動産のうちの各土地部分及び建物部分の評価額の取得時点及び譲渡時点における時点修正率の評定は、別表6の2ないし同6の5のとおりであり、右各時点における各土地部分及び各建物部分の時価による価額構成は、別表7の各時点における土地建物の価額構成欄のとおりである。)、右各土地部分の取得時点及び譲渡時点における時価評価額が、各建物部分の各時点における時価評価額を含めた合計金額に占める割合を求め、これに、原告が本件不動産を取得し、また、譲渡した際の実際の金額を乗じることによって、右実際の金額の中に本件土地部分の価格が占める割合を求めた。その計算式及び取得価格並びに譲渡価格は、別表7の<1>及び<2>に記載したとおりである。
本件不動産のうちの各土地部分の課税土地譲渡利益金額は、各譲渡価格から各取得価格の額及び法定の負債利子の額と法定の販売費及び一般管理費の額を控除することによって算出される。そして、右の算出方法によれば、本件不動産のうちの各土地部分の課税土地譲渡利益金額は、別表7の<3>及び<4>の欄に記載したとおり、それぞれ、二二八万六〇六一円及び四八四万五七七〇円となる。したがって、その合計金額七一三万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数は切り捨て)に対する二〇パーセントの金額である一四二万六二〇〇円が法人税額に加算されることとなるのである。
課税土地譲渡利益金額を算出するに当たり、控除しうる経費は、法定の負債利子の額と当該土地譲渡のために要した販売費及び一般管理費の額に限定されている(概算法。措置法六三条二項、同法施行令三八条の四第六項)が、法人が経費の額につき、当該事業年度においてした土地の譲渡の全てについて支出するこれらの経費の額のうち当該土地の譲渡にかかる部分の金額を合理的に計算し(第一要件)、かつ、これを法人税申告書に記載した場合(第二要件)には、右の金額(実績値)を経費として控除することが認められている(実額配賦法。同法施行令三八条の四第八項)。しかしながら、原告は、昭和五五年三月期の確定申告書に、原告が主張している実績値を全く記載していないから、実額経費を主張することはできない。
3 課税留保所得金額
前記のように、原告の昭和五五年三月期における所得金額は、五四八〇万三三四五円であるから、その全額が原告の留保所得金額となり、これに法六七条の規定を適用して課税留保金額を計算すると、同条一項に定める留保金額は、同条二項に定めるところにより、留保した所得金額五四八〇万三三四五円から、法人税額二二五〇万七四〇〇円及び道府県民税額等四六五万九〇三一円を控除した二七六三万六九一四円となり、さらに、同条三項により、留保控除額、すなわち、当該事業年度の所得等の金額の一〇〇分の三五に相当する金額(五四八〇万三三四五円×三五パーセント=一九一八万一一七〇円)を控除した八四五万五〇〇〇円となる。
4 更正の適法性
(一) 原告が昭和五五年三月期において納付すべき法人税額は、以下のとおりとなる。
(1) 所得金額に対する税額 二一〇八万一二〇〇円
昭和五五年三月期の原告の所得金額である五四八〇万三〇〇〇円に対する税額は、法六六条二項(昭和五六年法律第一二号による改正前のもの。)の規定により、右所得金額のうちの七〇〇万円については一〇〇分の二八の税率を、残額の四七八〇万三〇〇〇円については法六六条一項(右同)の規定により、一〇〇分の四〇の税率を、それぞれ乗じて計算すると、合計二一〇八万一二〇〇円となる。
(2) 課税土地譲渡利益金額に対する税額 一四二万六二〇〇円
原告の昭和五五年三月期に係る課税土地譲渡利益金である七一三万一〇〇〇円に対する税額は、措置法六三条の規定により、同金額に一〇〇分の二〇の割合を乗じて計算すると、一四二万六二〇〇円となる。
(3) 課税留保金額に対する税額 八四万五五〇〇円
原告の昭和五五年三月期に係る課税留保金額である八四五万五〇〇〇円に対する税額は、法六七条一項の規定により、同金額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算すると、八四万五五〇〇円となる。
(4) 以上の(1)ないし(3)の金額を合計すると、原告の昭和五五年三月期に納付すべき法人税額は、二三三五万二九〇〇円となる。
(二) 以上の結果、原告の昭和五五年三月期の所得金額、課税土地譲渡利益金額、課税留保金額及び納付すべき税額は、別表1の番号7審査裁決欄下段の括弧書きのとおり、国税不服審判所が裁決した金額と一致し、昭和五五年三月期に係る納付すべき税額は、被告の再更正処分に係る納付すべき税額を超えるから、本件更正は適法である。
5 加算税の賦課決定の適法性
(一) 重加算税の計算の基礎となる金額
(1) 原告は、昭和五五年三月期の所得金額のうち、その発生基因が明確な不動産譲渡利益金額一五八九万円及び家賃収入のうち、八九万四〇〇〇円(別表5の差引譲渡益の合計欄及び別表5の付表)の、合計一六七八万四〇〇〇円を損益計算書に計上しなかったが、この行為は、国税通則法(以下「通則法」という。)六八条に規定する「隠ぺい」に該当するから、右金額を重加算税の計算の基礎とすべきである。
(2) また、課税土地譲渡利益金額七一三万一〇〇〇円(別表1の(ロ)欄番号7欄の括弧書き)は、右の不動産譲渡利益金額のうちの土地の譲渡に係るものであるから、前記(1)と同様の理由により、その全額を重加算税の計算の基礎とすべきである。
(3) そして、課税留保金額のうち、計上もれの右不動産譲渡利益金額及び家賃収入のうちの八九万四〇〇〇円も、前記同様の理由により、重加算税の計算の基礎とすべきである。
(二) 過少申告加算税の計算の基礎となる金額
原告は、右(一)で述べた昭和五五年三月期の所得金額及び課税留保金額からそれぞれ重加算税対象部分を差し引いた残額を確定申告書の所得金額に計上していなかったが、この行為には、通則法六五条二項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。)に規定する正当な理由があるとは認められないから、当該残額は過少申告加算税の基礎とすべきであると認めたものである。
(三) 以上述べた重加算税及び過少申告加算税の基礎となる金額に、通則法六六条一項及び同法六五条二項に規定する率を乗じると、重加算税は、二五二万三〇〇〇円となり、また、過少申告加算税は、六〇万六〇〇〇円となり、合計三一二万九〇〇〇円となる。
四 抗弁に対する原告の認否
抗弁1(一)の事実は不知。同(二)(1)の真実は不知であり、同(2)ないし(4)の事実は否認する。同(三)の冒頭の事実は否認し、同(1)ないし(4)の事実は否認し、同(5)の事実のうち、原告が被告主張の土地・建物を貸借対照表に計上していなかったことは認め、その余は否認し、同(6)の事実を否認し、同(7)及び(8)の事実は認める。同(四)(1)は不知であり、同(2)は争う。
同2(一)前段のうち前文の事実は認め、後文は争い、同後段の事実は不知であり、同(二)の事実のうち、原告において土地あるいは建物ごとの各金額を記入した帳簿・書類が作成されていなかったことは認めるが、その余の事実は否認し、同(三)の事実は否認する。
同3及び4は争う。
同5の事実は否認する。
五 抗弁に対する原告の主張
1 被告は、原告の昭和五五年三月期の事業所得の金額の推計に当たり、以下の負債を計上すべきであるのにいずれも計上していないから、被告による推計は到底合理性を備えているとはいえない。
(一) 原告が株式会社太陽神戸銀行(以下「太陽神戸銀行」という。)から昭和五四年一〇月一八日借り入れた五〇〇〇万円の借入金
原告は、別表8の番号3の不動産の取得価格七五二〇万円のうち、五〇〇〇万円は太陽神戸銀行からの右借入金をもってその支払いに充てたものであり、右五〇〇〇万円は、昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。
(二) 原告が太陽神戸銀行から昭和五四年七月二日借り入れた三〇〇〇万円の借入金
原告は、別表8の番号1及び2の不動産の取得価格合計二〇九〇万円を、太陽神戸銀行からの右借入金をもってその支払いに充てたものであり、右三〇〇〇万円は、昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。
(三) 原告が昭和五四年七月三一日に取得した別表8の番号3記載の土地・建物の代金支払いの際に石山孝一から借り入れた二五二〇万円の借入金
原告は、右土地及び建物の取得価格七五二〇万円のうち、五〇〇〇万円を太陽神戸銀行から、不足分の二五二〇万円を石山孝一名義の通知預金二七〇〇万八八七六円から借り入れた金額をもってその支払いに充てたものであり、右二五二〇万円は昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。
(四) 原告が昭和五五年二月二六日に取得した別表8の番号4記載の建物の代金支払いの際に石山孝一から借り入れた八八一万円の借入金
原告は、右建物の取得価格八八一万円を、石山孝一が菊地善策に売却した不動産の売買代金三二〇〇万円のうちから支払いに充てたものであり、右八八一万円は昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。
(五) 原告が昭和五五年三月二六日に取得した別表8の番号5記載の土地の代金支払いの際に石山孝一から借り入れた八三二万円の借入金
原告は、右土地の取得価格八三二万円を、石山孝一から同人名義の日本長期信用銀行札幌支店のワリチョー満期受取金三七一万円のうちから三五五万二三二五円及び石山孝一が菊地善策に売却した不動産の売買代金三二〇〇万円のうちからその支払いに充てたものであり、右八三二万円は昭和五五年三月期の貸借対照表の負債の部の長期借入金科目に計上すべきである。
2 原告は、別表8の番号3の土地・建物について、賃借人である芳村商事株式会社から、裁判上一五〇〇万円の請求を受け、この紛争は解決していないから、右一五〇〇万円は右宅地・建物に係る負債として、右宅地・建物の価額から減額すべきものである。
3 被告の主張する計上もれ家賃額について
原告の家賃収入額は、確定申告書添付の損益計算書に記載したとおり、九八二万二〇〇〇円にすぎない。被告は、原告には昭和五五年三月期において、一〇七一万六〇〇〇円の家賃収入があったと主張するが、原告は、賃借人から九八二万二〇〇〇円以上の入金を受けていない。
第三当事者の提出、援用した証拠<略>
理由
一 請求原因1(一)ないし(三)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、被告の抗弁について判断する。
1 原告の昭和五五年三月期の事業所得
(一) 被告は、原告から提出された確定申告書に添付されていた貸借対照表をもとに、原告の設立第一期である昭和五一年三月期以降の貸借対照表を比較検討し、また、原告の取引銀行及び原告所有建物の賃借人に対して反面調査を行い、さらに、不動産鑑定士作成の評価書等を収集するなどして把握した金額及び評価額等をふまえ、財産増減法、即ち、原告の当期の期首及び期末の純資産(資産の額マイナス負債の額)の額の増減を調査し、これに資本の増減があった場合にはその額を加算ないし減算して所得金額を求める方法により、原告の昭和五五年三月期における所得金額を推計した。
(二) 推計の必要性について検討する。
(1) <証拠略>によれば、以下の事実を認めることができ、原告本人尋問の結果のうち、以下の認定に反する部分は採用できない。
(イ) 被告は、原告から提出された確定申告書に記載されている所得金額等を確認するため、同確定申告書添付の損益計算書及び貸借対照表を作成する基礎となった帳簿類及び証拠書類等を調査する必要があると認め、被告調査官の清野係官は、原告の昭和五五年三月期分の法人税について調査を試みた。
(ロ) 清野係官は、昭和五五年九月二〇日ころ、原告の事務所に赴き、同所にいた原告代表者の石山孝一に身分証明書を提示し、法人税調査に伺った旨を告げたうえ、昭和五五年三月期における申告書に添付の損益計算書及び貸借対照表を作成する基礎となった帳簿類及び証拠書類(契約書、請求書及び領収書等)を提出するよう要請したが、石山孝一は、帳簿類は作っていないし、証拠書類もほとんど保存していない、決算書類は、自分の記憶のみに基づいて作成したものであるとの趣旨を申し述べるだけで、清野係官の再三にわたる右提出要請に応じようとはしなかったため、やむなく清野係官は右事務所を辞去した。
(ハ) 清野係官は、その後昭和五五年一〇月初めころまでの間、電話で、石山孝一に対し、再三にわたり、帳簿類及び証拠書類の提出方を要請したが、同人は、一度札幌西税務署を訪れ、清野係官らと面接したが、その際も同係官らに対し、「そんなに儲かっていない。帳簿は整理している。」旨の話しはしたものの、調査に非協力的な態度に終始し、帳簿書類はついに提出しなかった。
(二) 右のような経緯で原告取引実績額を把握することが不可能であったため、被告は、法一三一条に基づく推計課税によることとした。
(2) 以上の事実によれば、被告は、原告の協力を求めて昭和五五年三期分の所得金額を取引実績額(総収入金額、必要経費につき実額)によって把握することを試みたが、原告において非協力的な態度に終始したため、これが不可能であったことからやむをえず、法一三一条に基づく推計課税を行うこととなったものであり、推計課税の必要性があったことは明らかである。
(三) そこで、被告主張の昭和五五年三月期の各勘定科目の計算の根拠について検討すると、<証拠略>によれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 繰越利益(損失)金の額
財産増減法により、原告の設立第一期である昭和五一年三月期から昭和五五年三月期までの事業年度における繰越利益(損失)金を順次補正すると、その内容は、別表2の各事業年度ごとの各調査額欄記載のとおりであり、原告の昭和五五年三月期における繰越損失金は、△四〇二万九八六五円となる。
(2) 普通預金勘定の金額
原告は、昭和五五年三月期の確定申告において、貸借対照表の普通預金勘定に太陽神戸銀行札幌支店に対する普通預金一三六万二五六七円を計上しているが、昭和五五年三月三一日現在における原告の同銀行に対する預金残高は、五七万七三二一円である。
(3) 定期預金勘定の金額
原告は、昭和五五年三月期の確定申告において、貸借対照表の定期預金勘定に太陽神戸銀行札幌支店に対する定期預金三七六万五六一円を計上しているが、原告の昭和五五年三月三一日現在における原告の同銀行に対する定期預金残高は、三六二万九八八八円である。
(4) 建物勘定の金額
昭和五四年三月期における一〇〇万円以外は、建物に対する資本的支出及び除却等の事実がないにもかかわらず、昭和五一年三月期を除く設立以後の各事業年度の建物勘定の金額と、原告が減価償却費として損金経理した金額との間に相関性がないから、原告が確定した決算において減価償却費として計上している金額を限度として、昭和五二年三月期にまでさかのぼって、貸借対照表に計上すべき建物勘定の金額を算定すると、その内容は、別表3記載のとおりであり、原告の昭和五五年三月期における建物勘定の金額は、合計八二一三万九二八七円となる。
(5) 決算外の土地及び建物の金額
原告は、別表4の昭和五五年三月期分欄のとおり、土地及び建物を、合計一億一三二三万円で、札幌地方裁判所から競落によって取得しているが、そのうちの六〇〇〇万円について貸借対照表に資産として計上したにとどまり、残りの五三二三万円については貸借対照表に計上しなかったが、被告は、右計上もれ分の金額五三二三万円を昭和五五年三月期末の貸借対照表上の資産として計上した。
なお、原告は、前期において、次表に記載したとおり、不動産を取得していながら、これを前期の貸借対照表に資産として計上していなかったが、被告は、右不動産の取得金額五七一万円も、昭和五五年三月期末の貸借対照表上の資産として計上した。
取得年月日
種類
面積m2
所在
取得価格
備考
昭和五三、六、一三
宅地
3382.2×55/7783
札幌市西区二四軒四条三丁目六二番二
五七一〇〇〇〇円
マンションカルチェド札幌四一二号
建物
五五・三一
〃
の七四
そうすると、原告の昭和五五年三月期における決算外の土地及び建物の金額は、右の金額を合計した五八九四万円となる。
(6) 短期借入金勘定の金額
原告は、貸借対照表の短期借入金勘定に石山孝一からの短期借入金五七二万円を計上しているが、このほか原告は、原告の関連会社であり、石山孝一が代表取締役に就任しているロック建設から昭和五三年九月二六日、五〇〇万円を借入しており、昭和五五年三月期末までにこれをロック建設に返済していないから、原告の昭和五五年三月期における短期借入金は、合計一〇七二万円となる。
(7) 預り敷金
原告は、昭和五四年七月三一日に、札幌市中央区北七条西二七丁目二二番地二ほか二筆の土地及び当該土地の上に所在する五階建事務所用建物を、札幌地方裁判所の競売により取得したことに伴い、当該土地及び建物の前所有者で、原告が取得する以前から当該建物に入居しており、引き続き入居することになった浅倉工業から同年九月に敷金として一八〇万円を受領しており(右事実は当事者間に争いがない。)被告は、同金額を、昭和五五年三月期末の貸借対照表の負債の部に預り敷金として計上した。
(8) 以上の(1)から(7)の勘定科目以外の勘定科目については、別表2記載のとおり、原告の確定申告における貸借対照表に記載された金額と同一である(右事実は当事者間に争いがない。)。
(9) 以上によれば、原告の昭和五五年三月期における所得の金額は、五四八〇万三三四五円となる。
(四) 右推計の合理性について検討する。
(1) 以上の推計方法は、原告が被告に提出した確定申告書に添付されていた貸借対照表をもとに、原告の当期の期首及び期末の純資産の額の増減を調査し、資本の増減の額を加・減算して所得金額を算出したもので、被告が原告の財産の増減状況を把握するに当たり、銀行・裁判所等の信用性ある機関により作成された客観的な資料に依拠し、また、原告の計算の誤りを会計学上の等式に従って修正したもので被告のし意が介在する余地はないのであるから、推計の基礎事実は正確に把握されているものであり、帳簿書類等の存在しない本件にあっては、真実の所得に近似した数字が算出されるような客観性を備えているものといえる。
(2) 原告は、被告が原告の昭和五五年三月期の事業所得の金額の推計に当たり、計上すべき負債を計上していないから、被告による推計は到底合理性を備えているとはいえないと主張する。
まず、原告が計上すべきと主張する、太陽神戸銀行から昭和五四年一〇月一八日借り入れた五〇〇〇万円の借入金については、<証拠略>によれば、被告としても原告の昭和五五年三月期の事業所得の金額の推計に当たり、右借入金の残額四七九〇万円を長期借入金に含めて計上していることが認められるから、この借入金に関する原告の主張には理由がない。
次に、原告が計上すべきと主張する、太陽神戸銀行から同年七月二日借り入れた三〇〇〇万円の借入金については、<証拠略>によれば、原告が太陽神戸銀行から同日三〇〇〇万円借り入れ、かつ、右借入金を同五五年三月三一日までに全額弁済していることも認めることができるから、右借入金に関する原告の主張にも理由がない。
さらに、原告は、昭和五四年七月三一日に取得した別表8の番号3記載の土地・建物の代金支払いの際に石山孝一から二五二〇万円を借り入れ、昭和五五年二月二六日に取得した別表8の番号4記載の建物の代金支払いの際に石山孝一から八八一万円を借り入れ、昭和五五年三月二六日に取得した別表8の番号5記載の土地の代金支払いの際に石山孝一から八三二万円を借り入れたと主張し、原告代表者は、その本人尋問において右主張にそう供述をするが、<証拠略>によれば、石山孝一がその名義の通知預金二七〇〇万八八七六円を同五四年八月一五日解約したこと、石山孝一が菊地善策にその所有する不動産を代金三二〇〇万円で売却したこと、石山孝一の日本長期信用銀行札幌支店に対する同年一二月二七日満期日のワリチョーが三七一万円であることを認めることができるが、右各事実と原告の主張する石山孝一からの借入れは直ちに結びつくものではなく、原告代表者本人尋問の結果を採用することはできず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。
(3) 原告は、別表8の番号3の宅地・建物について、芳村商事株式会社が賃借人として原告に裁判上一五〇〇万円を請求し、この紛争は解決していないから、右一五〇〇万円は右宅地・建物に係る負債として、右宅地・建物の価額から減額すべきものであると主張する。
しかしながら、原告の主張によっても、右の一五〇〇万円についてはいまだ係争中で債務として確定していないから、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従い(法二二条四項)、権利確定主義の原則によれば、昭和五五年三月期において負債として計上できないものというべきである。したがって、原告の主張するように、右の宅地・建物の取得価額から一五〇〇万円を差し引いて資産の部に計上することも到底許されないというべきである。
2 原告の昭和五五年三月期の課税土地譲渡利益金額
(一) 原告が別表5記載の本件不動産を同表取得年月日欄記載の日に、同表取得金額欄記載の金額で、札幌地方裁判所から競落によって取得した後、同表売却年月日欄記載の日に、同表売却金額欄記載の金額で、同表売却先欄記載の相手方に売却していること、原告が、本件不動産のうちの各土地部分を取得したのは、いずれも昭和四四年一月一日以後であることは、当事者間に争いがない。したがって、右土地部分の譲渡利益金額の合計額の二〇パーセントに当たる金額が法人税の額に加算されることになる(措置法六三条一項一号)。
<証拠略>によれば、被告は右加算金額の基礎となる課税土地譲渡利益金額を算出する前提として、本件不動産のうちの各土地部分及び各建物部分の取得金額及び売却金額を推計の方法により確定したことを認めることができる。
(二) 推計の必要性についてみると、原告においては、土地あるいは建物ごとの各金額を記入した帳簿・書類等が作成されていなかったことは、当事者間に争いがない。そして、<証拠略>によれば、原告には、右各土地部分及び建物部分の各金額を実額によって把握しうる資料もなかったことが認められる。
右事実によれば、被告は、本件不動産のうちに各土地部分及び各建物部分の各金額を推計により算出せざるを得なかったものということができる。
(三) 被告は、右各土地部分の各金額を推計により算出するに当たり、右各土地部分の近傍類似の土地(別表6の1の参考欄記載の基準地)の地価公示価格を基準として、札幌地方裁判所が本件不動産を競売するに際して依頼した不動産鑑定士による本件不動産の鑑定時点及び鑑定評価額を基に、原告が本件不動産を取得した時点及び譲渡した時点の各時価の変動率を時点修正して各土地部分の各金額を求め、また、各建物部分については、再調達原価を基に未償却残高を求め、評価時点におけるそれぞれの時価を算定し(なお、本件不動産のうちの各土地部分及び建物部分の評価額の取得時点及び譲渡時点における時点修正率の評定は、別表6の2ないし同6の5のとおりであり、右各時点における各土地部分及び各建物部分の時価による価額構成は、別表7の各時点における土地建物の価額構成欄のとおりである。)、右各土地部分の取得時点及び譲渡時点における時価評価額が、各建物部分の各時点における時価評価額を含めた合計金額に占める割合を求め、これに、原告が本件不動産を取得し、また、譲渡した際の実際の金額を乗じることによって、右実際の金額の中に本件土地部分の価格が占める割合を求めたことを弁論の全趣旨により認めることができる。そして、右算定方法の基礎として採用した計数は、いずれも、<証拠略>により認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、本件不動産の各土地部分の取得価格及び譲渡価格を別表7の<1>及び<2>欄のとおり算出することができる。
本件不動産のうちの各土地部分の課税土地譲渡利益金額は、右の各譲渡価格から各原価の額及び各土地部分を譲渡するために直接又は間接に要した費用、すなわち、法定の負債利子の額と法定の販売費及び一般管理費の額を控除することによって算出されるから、本件不動産のうちの各土地部分の課税土地譲渡利益金額は、別表7の<3>及び<4>欄のとおり、それぞれ、二二八万六〇六一円及び四八四万五七七〇円となる。したがって、その合計金額七一三万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満の端数は切り捨て)に対する二〇パーセントの金額である一四二万六二〇〇円が法人税額に加算されることとなる。
課税土地譲渡利益金額を算出するに当たり、控除しうる経費は、法定の負債利子の額と当該土地譲渡のために要した販売費及び一般管理費の額に限定されている(概算法、措置法六三条二項、同法施行令三八条の四第六項)が、法人が経費の額につき、当該事業年度においてした土地の譲渡の全てについて支出するこれらの経費の額のうち当該土地の譲渡にかかる部分の金額を合理的に計算し、かつ、これを法人税申告書に記載した場合には、右の金額(実績値)を経費として控除することが認められている(実額配賦法。同法施行令三八条の四第八項)。しかしながら、<証拠略>によれば、原告は、昭和五五年三月期の確定申告書に、原告が主張している実績値を全く記載していないから、実額経費を主張することはできない。
3 課税留保所得金額
前記のように、原告の昭和五五年三月期における所得金額は、五四八〇万三三四五円であるから、その全額が原告の留保所得金額となり、これに法六七条の規定を適用して課税留保金額を計算すると、同条一項に定める留保金額は、同条二項に定めるところにより、留保した所得金額五四八〇万三三四五円から、法人税額二二五〇万七四〇〇円及び道府県民税額等四六五万九〇三一円を控除した二七六三万六九一四円となり、さらに、同条三項により、留保控除額、すなわち、当該事業年度の所得等の金額の一〇〇分の三五に相当する金額(五四八〇万三三四五円×三五パーセント=一九一八万一一七〇円)を控除した八四五万五〇〇〇円となる。
4 更正の適法性
(一) 原告が納付すべき税額は、以下のとおりとなる。
(1) 所得金額に対する税額 二一〇八万一二〇〇円
昭和五五年三月期の原告の所得金額である五四八〇万三〇〇〇円に対する税額は、法六六条二項(昭和五六年法律一二号による改正前のもの。)の規定により、右所得金額のうちの七〇〇万円については一〇〇分の二八の税率を、残額の四七八〇万三〇〇〇円については法六六条一項(右同)の規定により、一〇〇分の四〇の税率を、それぞれ乗じて計算すると、合計二一〇八万一二〇〇円となる。
(2) 課税土地譲渡利益金額に対する税額 一四二万六二〇〇円
原告の昭和五五年三月期に係る課税土地譲渡利益金である七一三万一〇〇〇円に対する税額は、措置法六三条の規定により、同金額に一〇〇分の二〇の割合を乗じて計算すると、一四二万六二〇〇円となる。
(3) 課税留保金額に対する税額 八四万五五〇〇円
原告の昭和五五年三月期に係る課税留保金額である八四五万五〇〇〇円に対する税額は、法六七条一項の規定により、同金額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算すると、八四万五五〇〇円となる。
(4) 以上の(1)ないし(3)の金額を合計すると、原告の昭和五五年三月期に納付すべき法人税額は、二三三五万二九〇〇円となる。
(二) 以上の結果、原告の昭和五五年三月期の所得金額、課税土地譲渡利益金額、課税留保金額及び納付すべき税額は、別表1の番号7「審査裁決」欄下段の括弧書きのとおり、国税不服審判所が裁決した金額と一致し、昭和五五年三月期に係る納付すべき税額は、被告の再更正処分に係る納付すべき税額を超えるから、本件更正は適法である。
5 賦課決定の適法性
(一) 前記認定事実によれば、原告は、昭和五五年三月期の法人税の確定申告に際し、所得金額、課税土地譲渡利益金額、課税留保金額及び納付すべき税額につき、過少申告をしたことになる。
(二) そこで、重加算税の賦課の対象となる事実について検討する。
(1) 被告は、原告が昭和五五年三月期の確定申告に際し、その所得金額のうち、その発生起因が明確な不動産譲渡利益金額一五八九万円及び家賃収入のうち、八九万四〇〇〇円(別表5の差引譲渡益の合計欄及び別表5の付表)の合計一六七八万四〇〇〇円を損益計算書に計上しなかったが、この行為は、通則法六八条一項に規定する「隠ぺい」に該当すると主張する。
(イ) まず、前記のように、原告が昭和五五年三月期において、別表5記載の各不動産を同表記載の取得金額及び売却金額で売買していることは、当事者間に争いがない。したがって、原告は、その差引譲渡益一五八九万円を昭和五五年三月期の損益計算書に計上すべきこととなる。
そして、右争いのない事実並びに<証拠略>によれば、原告は右利益金額の存在を認識しつつこれを損益計算書に計上せず、その結果、所得金額を過少に申告したことを認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
したがって、原告が昭和五五年三月期の確定申告において右利益金額一五八九万円を計上しなかったのは、通則法六八条一項の「隠ぺい」に該当するということができる。
(ロ) 次に、前記認定事実並びに<証拠略>によれば、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従い(法二二条四項)、発生主義・権利確定主義により原告の家賃収入をみると、原告は、昭和五五年三月期において、<1>別表5の付表記載の番号1の木造共同住宅を南雅洋、猪狩弥末広、酒井秀樹、石橋勝憲、成田克雄、西村雅之、小田文子、山岸秀夫、福岡与四郎、高橋敏雄、今川泰玉らに賃貸し(ただし、右の者の中には、中途入退居者もいるものと思われる。)、賃料一か月当たり二〇万円、合計二四〇万円の収入をあげ、<2>別表5の付表記載の番号2の木造二階建て店舗を佐藤ふう子に賃料一か月当たり三万八〇〇〇円で賃貸し、合計四五万六〇〇〇円の収入をあげ、<3>別表5の付表記載の番号3の浅倉ビルを昭和五四年八月から浅倉工業に賃料一か月当たり九〇万円で賃貸し、合計七二〇万円の収入を上げ、<4>別表5の付表記載の番号4のマンションカルチェド札幌四一二号室を北海道消火設備株式会社に賃料一か月当たり五万五〇〇〇円で賃貸し、合計六六万円の収入をあげ、年間を通じ一〇七一万六〇〇〇円の賃貸収入を得ており、右賃貸収入の存在を認識していたこと、そして、原告は、右の賃貸収入のうち、九八二万二〇〇〇円のみを損益計算書に計上したのみで、残余の八九万四〇〇〇円を損益計算書に計上していないことを認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
したがって、原告が昭和五五年三月期の確定申告において右八九万四〇〇〇円を計上しなかったのは、通則法六八条一項の「隠ぺい」に該当するということができる。
(2) また、原告が右の不動産譲渡利益金額のうちの土地の譲渡に係る課税土地譲渡利益金額七一三万一〇〇〇円(別表1の(ロ)欄番号7欄の括弧書き)及び課税留保金額のうちの右の不動産譲渡利益金額及び家賃収入のうちの八九万四〇〇〇円を計上しなかった行為も、同様に、通則法六八条一項の「隠ぺい」に該当する。
(三) 以上の事実をもとに、昭和五九年法律第五号による改正前の通則法六八条一項、六五条一項、一一八条三項、一一九条四項を適用して算定すると(なお、過少申告加算税の基礎となるべき税額は、原告が本件更正に基づき納付すべき二〇五四万〇四〇〇円であり、このうち、隠ぺい又は仮装されていない事実に基づく税額は一四九三万五三〇〇円である。)、重加算税は一六八万一五〇〇円、過少申告加算税は七四万六七〇〇円、合計二四二万八二〇〇円となるから、本件賦課決定は、二四二万八二〇〇円の限度で適法であり、この金額を超える部分は違法である。
三 以上によれば、原告の請求は、本件賦課決定のうち二四二万八二〇〇円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるから本件賦課決定をこの限度で取り消し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 福永政彦 宮森輝雄 冨田一彦)
別表1
課税の経過
事
業
年
度
区分
番号
年月日
所得金額
課税土地譲渡利益金額
課税留保金額
納付すべき税額
過小申告加算税の額
重加算税の額
(イ)
(ロ)
(ハ)
(ニ)
(ホ)
(ヘ)
55
年
3
月
期
確定申告
1
55・5・31
△5,269,901
―
―
―
―
―
更正処分
2
55・11・21
56,875,210
11,035,000
10,523,000
25,169,300
76,200
7,093,200
異議申立
3
56・1・17
△5,269,901
―
―
―
―
―
異議決定
4
56・4・13
(棄却)
審査請求
5
56・5・12
△5,269,901
―
―
―
―
―
再更正処分
6
58・7・11
45,767,489
11,035,000
8,666,000
20,540,400
0
6,162,000
審査裁決
7
60・6・24
45,767,489
(54,803,345)
(7,131,000)
(8,455,000)
20,540,400
(23,352,900)
606,000
2,523,000
別表2ないし別表8<略>